終着駅
平成15年になくなった宮脇俊三さんの単行本未収録の作品がこのたび「終着駅」というタイトルで単行本化された。特にデビュー作1978年の「時刻表2万キロ」と1979年の第2作目「最長片道切符の旅」の間に歯科技工士向け専門誌に掲載されていた連載エッセイは、私自身も存在を知らなかったものだ。
本書の内容は大半が今から30年も前に書かれたものであるが、古さをまったく感じさせない。再び宮脇エッセイをまた読むことができ、本当にうれしい。シンプルな文章、ほのぼのとしたユーモア、それでいて正確な描写、これが一体となって、自分自身も旅をしている気分に浸れるのがその特長だ。
本人自身は生前、作家の死後に家族が遺稿を発表するのを皮肉っていたようだが、家族としては逆にそうすることが故人への務めでもあるのだろう。あとがきで娘の宮脇灯子さんが、当初は迷いもあったがよい作品を集めることができてこの作品を世に送り出せてよかったと書いている。その通りだろう。
昨今の鉄道ブームで鉄道書の量はおびただしいが、宮脇さんの文章に魅かれてこの世界に入った私には、どれも文章力に乏しく、旅の魅力を十分に伝え切れていないことを苦々しく思ってきたので、この本で味わいのある文章に接することができた。しかし、これが本当に宮脇エッセイの「終着駅」になるのだろう。さびしい気もする。
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